ヨーロッパの小さな国

ヨーロッパには小さな国が多い。元々、19世紀の国家統一運動以前はこのレベルの国が何十もあったのが、民族主義の高揚の中でドイツ、イタリアが統一された中、そこからはみ出した国が多いのだが、それぞれ異なった歴史と理由を持っている。ヨーロッパの歴史を理解する上で参考になる点もあるので、以下、小さい順に簡単に紹介してみよう。

・バチカン市国
御存知、カトリックの大本山。本来はローマはもとよりロマーニャ一帯を教皇領として所有していたのが、イタリア統一運動で教皇領を失い、ローマも占領される。その後、イタリアとの和解が成立し、ローマ教会の敷地がイタリアとは別の独立国家とされたことで始まる。元首はローマ教皇で、市民はローマ教会関係者だけで、この国で生まれた国民は存在しない。

・モナコ公国
ジェノヴァの有力貴族グリマルディ家が15世紀に領有し、現在まで続く。フランスの保護国になったため、イタリア統一に含まれなかった。本来、嫡出男子の後継者が途絶えれば、フランスに併合されるはずだったが、条約を改正して女系も認める方針にしたため、今後も維持される見込み。ご存知カジノと観光地として有名。

・サンマリノ共和国
小さな国は普通は大国に挟まれた位置にあり、どちらにも含まれなかった結果であることが多いが、ここはイタリアのど真ん中にあり、民族もイタリア人の謎の国。聖マリヌスが山中に作った教会が元で何と4世紀頃から共和国が続いているという。イタリア統一の時は迫害された統一主義者を匿った功績によりガリバルディから独立を認めてもらったそうだ。F1のサンマリノ・グランプリは名前を貸していただけで、実際はイモラで行われていた。

・リヒテンシュタイン公国
ドイツの領邦国家だが、意外に誕生は新しい。リヒテンシュタイン家自体は古くからある貴族なのだが、帝国直属の諸侯(プリンス)ではなかったのが、所領を色々買い集めて1719年にプリンスとして認められた。現在のリヒテンシュタインはその一部に過ぎず、また彼らはハプスブルク家に仕えて、貴族としてウイーンなどで生活していたため、その後120年間、この地に行くことがなかったという。ドイツ統一時にはオーストリアについて、ドイツ帝国に参加せず、第一次大戦後にオーストリア帝国が分解すると独立国となった。スイスの保護下に入り、第二次大戦中は一応、中立だったがポーランドやチェコの所領を失い、現在のリヒテンシュタインのみになった。

・マルタ共和国
シチリア王国領だったが、16世紀に神聖ローマ皇帝にしてスペイン王、シチリア王、オーストリア大公・・のカール5世がロードス島を失った聖ヨハネ騎士団に貸し与えた。以降、マルタ騎士団としてこの地を支配したが、エジプトに向かう途中のナポレオンに征服される。その後、英領になり1964年に独立。

・アンドラ公国
13世紀から(スペインの)ウルヘル司教と(フランスの)フォワ伯が共同領主だったが、フォワ伯→ナバラ王→フランス王と相続によって所有権が移り、革命後はフランスの元首がアンドラ公国の共同元首となっている。1934年にアンドラ王を名乗って独立しようとした人がいたらしいが、スペインに逮捕されたそうだ。結局、共同主権だからどちらにも併合されなかったという感じか。ナバラ王国ほど大きければ分割されたかもしれないが。

・ルクセンブルク大公国
ルクセンブルク自体は古くからあり、ルクセンブルク家は神聖ローマ皇帝にもなっているのだが、その後、ブルゴーニュ、ハプスブルクと移り、ナポレオン後、1815年のウイーン会議でオランダ王が大公を兼ねる同君連合国となった。どうもプロシアとオランダの両者が所有を主張したため、折衷案として同君連合だが、ドイツ連邦にも加盟する独立国とされたようだ。大半がフランス語地域だったため、ベルギー独立の際にベルギーに入るが結局、領土を半分以上ベルギーに残して、残りが再びオランダ王の元、大公国に戻った。1890年にオランダがウイルヘルミナ女王になると男系継承でナッサウ公のアドルフが大公になり同君連合を解消して現在に至っている。

ちょっと面白いのがイタリアのサンレモの近くにある村おこし自称国家のセボルガ公国。修道院領で小さいながらも1079年に神聖ローマ帝国から公国を認められており、1729年にサボア/サルディニア王国に売却されたが、手違いからかサボア側が正式に登録していなかったそうで、ナポレオン戦争後のウイーン会議でもイタリア統一運動でもその帰属が明記されていないため*、1960年代に依然として公国だと主張したもので、法理論にはかなっているといえる。もっとも住民自体はサボア、イタリアの国民として抵抗なく過ごしてきた訳で、現在、イタリアの選挙に参加し、税金も払っており、単なる観光用のアピールである。

*当然、サルディニア王国に属すると思われていたのだろう。

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