婚姻の無効

婚姻の無効(Annulment)は離婚とは異なり、結婚の事実そのものを取り消すことである。日本の法律では、誘拐、脅迫など犯罪的な手段によるもの、重婚、婚姻年齢に達していない、結婚時点で死亡している等、限られた場合のみに裁判所の認定によって認められる。一方、キリスト教の影響の強い国々では、中、近世を通じて、カトリックにより離婚が認められておらず、便法として「婚姻の無効」が行われてきたためか、現在でも幅広く適用されているようである。

中世においては、カトリック教会が結婚を支配し、結婚は神の前で生涯連れ添うことを誓うため、離婚は認めていなかった。しかし、一方で婚姻外の子供(庶子)の相続権を認めていなかったから、嫡出男子を持たない王侯貴族、資産家は離婚・再婚を望んだため、「婚姻の無効」が便法として広く用いられた。従って、理由は適当で良く、認めるか否かは教会の考え一つであり、交換条件として様々な利益を教会にもたらした。

近代に入ると、教会とは別に婚姻の法整備が進んだため、多くの国で離婚が認められるようになったが、カトリックの影響の強い国では現在でも離婚に対する抵抗は強いようだ。

婚姻の無効の条件

もちろん、国によって法律は違うが、一般的には次の条件が適用される。

  1. 重婚
  2. 幼すぎる
  3. 結婚時に、麻薬やアルコールの影響下にあった
  4. 結婚時に精神異常である。
  5. 詐欺または脅迫による結婚
  6. 性的不能(インポテンツ)
  7. 近親相姦

中、近世の婚姻の無効

ルイ12世
ルイ11世の娘ジャンヌと結婚していたが、シャルル8世が男系後継者なしで死亡すると王位に就いた。ブルターニュー公領を望んで、シャルル8世の妻であったフランス王妃アンヌ(ブルターニュー公領相続人)と結婚するため、ジャンヌとの婚姻の無効を申請した。時のローマ教皇アレクサンデル6世と協定を結び、教皇の庶子チェーザレ・ボルジャにヴァランス公位、フランス王族との婚姻、ローマの守備隊を提供するなどの条件で婚姻の無効を認められた。

エドワード4世
リチャード3世は兄エドワード4世の死後、エドワード4世は以前に秘密結婚を行っており、王妃エリザベス・ウッドヴィルとの結婚は重婚により無効であり、二人の息子エドワード5世ヨーク公リチャードは非嫡出子で相続権が無いと主張して、自ら王位に就いた。

ヘンリー8世
王妃キャサリン(スペイン王女)との間に男子が生まれなかったため、アン・ブーリンとの再婚を望んだが、時の教皇クレメンス7世が神聖ローマ皇帝(スペイン王)カール5世の圧力により、婚姻の無効を認めなかったため、ローマ・カトリック教会から離脱し、イギリス国教会を作った。

最近の婚姻の無効

よく結婚して「騙された」と形容する人がいるが、米国など「婚姻の無効」が広く適用されている国では、その程度の理由でも申請すれば、審議無しで認められるようである。 最近では、ブリトニー・スピアーズが3(アルコール)を理由に、レニー・ゼルウィガーが5(詐欺)を理由に婚姻の無効を行っている。

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